渡辺まどかです。
今年、大きく変わったこととして、仕事の中に生成AIを使うことが当たり前になった、ということがあります。
私自身、個人の仕事の中でも使っていますし、企業研修でもグループワークをするときに生成AIを使う場面が出てきました。
ただし、使い方を間違えると、全く相手に響かなかったり、仕事の質を落としてしまうなあという実感も持っています。
今日は、実際にあった事例を引きながら、生成AIを使うべきではないときと、使うときの注意点についてご紹介してみたいと思います。
目次
ケース1:転職活動で起きた「自己PRの熱量が消える」問題
転職活動で、自己PRや想定問答を作成しているクライアントさんに対して、添削をしていたときのことです。
文章としては良く書けているのですが、いまいち心に響きません。一般的でつまらない文章になってしまっているのです。
はじめのうちは、「ここに、あなたがこの職種を目指すきっかけとなった個人的なエピソードを入れましょう」とか「あなたにとっての信念はなんでしょうか。その信念を持つに至った経緯を具体化して入れましょう」といったアドバイスをしていたのですが、数回やりとりをしてもいまいちちぐはぐな印象です。
思い切って、もしかして「生成AIを使って作成した自己PRですか?」と尋ねたところ、そのとおりでした。
転職活動というのは、単にその人の知識や経験が問われているわけではありません。
特に、キャリアを重ねた人の場合、
- これまでの経験でどんな成功・挫折体験を味わい、何を学んだのか
- 何が自分にとってのキャリアの軸となる信念なのか、重要な価値観となっているのか
- その信念や価値観と相手先企業の起業理念のどこに重なりがあり、どう貢献できるのか
が問われています。
職務経歴書や相手先企業の募集要項を読み込ませて自己PRを作っても、生成AIが作ってくれるのは、職務経歴書上の経験と募集要項の内容の共通項を言語化しているにすぎません。
そのため、生成AIが作り出した自己PRは一般的でつまらないものになってしまいますし、個人的なエピソードを無理やり入れ込んでもちぐはぐな印象になってしまうのです。
中途採用で見られているのは、経験や知識だけではなく、「人」そのものです。
面接官に、この人と一緒に働きたい、一緒に働いたらチームがもっと良くなる、成長できると思ってもらうことが大事なので、「経験」という事実だけではなく、「その経験で何を感じ、どうしたいと思ったのか」、感情や意思(モチベーション)を見ているのです。
生成AIで作った文章がまったく響かないのはそのような理由です。
その方には、カウンセリングをしながらその人の強みを一緒に言語化し、それを軸に自己PRを書き直してもらいました。すると、個人的なエピソードも、その人が大切にしている価値観もするすると言語化できるようになったそうです。
ご本人は、「文章が長すぎる」と感じて何度か要約するために生成AIを使おうとしたようですが、生成AIを使うと、感情が乗った部分、いわゆる臨場感が失われるため、私の方で個別に添削して、削るところと残すところを考えていきました。
このように、
「その人の主観」が重要な場面では、生成AIは使わないことを強くお勧めします。
ケース2:管理職候補者試験で分かれた、生成AIの使い方の差
とある企業の管理職候補者試験の講師をしたときのこと。その企業では、アウトラインレベルの事業計画書を作成し、それを役員の前でプレゼンするスタイルの試験を実施しており、事前研修で事業計画書の作成の仕方とレビューを行いました。
その企業では、業務の中で生成AIを積極的に使うように方針が示されており、試験のプレゼンでも生成AIを積極的に使うことが推奨されていました。
数名のかたのプレゼン資料をレビューしたのですが、同じ生成AIを使ったプレゼンであるにもかかわらず、「これなら大丈夫」という方と、「これだと厳しい」という方が出てきます。
その差を分析すると、「これなら大丈夫」というプレゼン資料を作った方に共通するのは「これまでに自分が何を経験し、何が強みで、その強みを活かして管理職として何をしたいのか」まできちんと自分で言語化できている方でした。
生成AIを使ったのは、
- やりたいことを実現するために、どんなステップでどんな手段があるかの検討
- 全体の文章の流れがスムーズか、どんな反論が起こりうるかのチェック
などで使っているケースがほとんどでした。
一方、「これだと厳しい」というプレゼン資料を使った方に共通するのは、
現在の自分の組織の状況と会社の中期経営計画書を読み込ませて「事業計画書としてあり得そうな内容」を生成AIに作ってもらっている
という点でした。
ここでもやはり、「自分は何者で、何がしたいのか」という主観がないままなので、なぜその事業を選ぶのか、なぜそのやり方を選ぶのかに、その人らしさが乗っていないのです。
その人らしさが乗っていないということは、「この人を管理職にしたら、全力を尽くしてこの事業計画書を実現しようとがんばってくれるだろう」という実現可能性や主体性が見えないということになります。だからこそ、プレゼンに説得力がないわけです。
このケースでは、「事業」という「コト・モノ」を具体化したり、ストーリーの一貫性や論理の穴を探すという仕上げの部分では生成AIが良い仕事をしますが、
どんな事業をするか(=どんなキャリアを選びたいのか)やどうやって進めたいのか(=複数のやり方がある中で自分の強みが活かせるやり方はどれか)など、「自分の軸を決める」「自分の選択基準に沿って選ぶ」部分はその人らしさそのものなので、生成AIに委ねるべき部分ではないと言えます。
ケース3:研修のケース読解で見えた、AI任せ分析の落とし穴
また別の企業研修でのケースです。この企業では、マーケティング戦略の基礎として、ケースワーク(一つの企業の置かれている状況を文章にまとめ、それを課題としてグループワークを行う)を通じてマーケティングの進め方やフレームワークの使い方を学ぶ研修を行っています。
人事部からの要請で内容が改訂され、従来は3つのグループワークで行っていた内容を、1つのグループワークにまとめなければならなくなってしまいました。時間が足りないため、基礎的な分析は生成AIを使ってOK、ただし、中核となる分析は生成AIを使わないようにと指示を出してグループワークを行ってもらいました(そのもそもフレームワークの使い方を学ぶ研修なので、中核となる分析に生成AIを使うと学びにならないため、生成AIの使用は禁止しました)。
すると、全てのグループが生成AIを使って基礎的な分析を行うようになり、グループワークの時間は飛躍的に短縮されました。
ところが、ケースの文章をきちんと読まず、生成AIが出してきた分析結果だけを見て、中核となる分析を行うようになったため、最終的なアウトプットが、一般的でつまらないものしか出て来なくなってしまったのです。
ここから言えることは、
付加価値のある示唆を出すためには、たくさんの情報がある中で、どの情報に着目するのか、その情報をどのように解釈・意味付けをするのか、そこに人間主観が含まれるから、面白い、イノベーティブな発想が打生まれる
ということです。
生成AIを使うことで、確かに時間は短縮されますが、どの情報を選びどう解釈・意味付けするかがテンプレ化するので、テンプレ化された基礎分析をもとに中核となる分析をしても、まったく面白みがない結果になってしまうのですね。
たくさんの情報があり、それを整理しなければならない状況であったとしても、その情報を集めるだけではなく、ある程度目を通し、自分なりの仮説を持ったうえで分析しなければ、ただの薄っぺらい上澄みの整理にしかならないということです。
ケース2でも触れましたが、「どこに着目するのか」「それをどう解釈するのか」「そのうえでどう仮説を持つのか」も、その人らしさであり、その人らしさのない分析は一般論にすぎません。誰でもできる分析、どの企業でもできる分析にすぎないため、競争優位性を持ちえないのです。
生成AIは答えをくれない問いがある
いずれのケースでも言えるのは、生成AIはあくまで、補助であり、一般論や平均的な正解しか出してくれないということです。
何を選び、何を大切にするのか、
何が自分らしい選択で、自分はどうしたいのか。
この問いに、生成AIは答えを出してくれません。
逆に言えば、その問いに答えを持ちうる人は、生成AIを最大限に活用して、飛躍的な成果を出すことができます。
「どこをAIに任せ、どこを人が考えるのか」を実際の業務に引きつけて整理していくことが、生成AIを使いこなすうえで最も重要なポイントになります。



