先日実施したセミナーで、こんなことをおっしゃっている方がいらっしゃいました。
その方が、上司のどんなかかわりを「ボコボコ」と表現したのかはわかりません。
「上司が冷静にダメなポイントを列挙する」様子を「ボコボコ」と表現したのかもしれないし、「上司が感情的に叱責する」様子を「ボコボコ」と表現したのかもしれない。
ただ、いずれにせよ、「ボコボコ」にされることは、誰にとってもうれしいことではない。傷つくし、凹むし、やる気を失ったり、投げ出したくなったり、逆に反撃してやる!という気持ちになることもあるでしょう。
今回はそんなトピックについて考察してみたいと思います。
目次
みんな「自分がどう感じたか」を自覚できていない?
問題なのは、ビジネスの場において、「やる気を失う」「投げ出す」「反撃する」という行動が、前向きな成果を出すか、そして、あなたのキャリアにどんな影響を与えるかということです。
「やる気を失う」「投げ出す」「反撃する」は、いずれも行動です。
そして、
その行動は、相手の言動に対するあなたの反応、つまり、
「あなたがどう感じたか」という気持ちがトリガーになっています。
しかし、人間、思いのほか「自分がどう感じたか」という気持ちを自覚できていないものです。
「やる気を失う」「投げ出す」は、「どうせ何を言ったって否定されるんだ、もう意見を言ったり行動したりするもんか」という反発の気持ちの表れ。
「反撃する」は、「そっちがそう出るなら、こっちはもっと痛い目を見せてやるぞ!」という気持ちの表れです。
自分では自覚していようがいまいが、実はそこには「怒り」の感情が乗っています。
「仕事は仕事でしょ?感情・気持ちなんて関係ない」と思って、「自分がどう感じたか?」を自覚せずに行動に出ると、痛い目を見ます。
私自身が身をもって経験したエピソードをご紹介しましょう。
前職のコンサルティング会社時代の私に欠けていたもの
前職のコンサルティング会社で、お客様に業務改善のご提案をしたときのこと。
私が一通り説明を終えると、お客様は何か思案顔で、「このページは○○ってことですか?」と質問されました。
その時の私は、
と思い、最初の説明よりもさらに詳細な説明をしました。
ところが、説明をすればするほど、お客様の表情が険しくなっていきます。
最後には
と面談を切り上げられてしまいました。
今思えば、当時の私は、自分に自信がなくて、いつも
と不安な気持ちでした。
しかし、その不安な気持ちを自覚しておらず、むしろ不安な気持ちをなかったことにするために、日々、ロジカルな説明、ロジカルなコミュニケーションのスキルを磨いていました。
お客様への提案を任されるくらいですから、コンサルタントとして必要なスキル・能力はあったのだと思います。
でも、私に欠けていたのは、
「お客様とコミュニケーションを取ろう」「信頼関係を築こう」
「相手のために何ができるのだろうか?」という、
相手に対する興味関心、相手を思いやり、協働しようという姿勢でした。
それが欠けていると、どうなるのか。
「相手の質問に対して応える」という行動の質が変わるのです。
無自覚の思い込みの怖さ
当時の私にとって、お客様の「質問」という行動は、「お客様が私とコミュニケーションを取ろうとしたこと」ではなく、「私が行った素晴らしい提案(でも実は不安で仕方がない)に対する反発」に見えていました。
極論すると、
という感じです。
もちろん、その時にはそんな自覚はありません。だから厄介なのです。
私は、自分の説明は、お客様の質問に対する応答であると思いこんでいました。
しかし実際には、私がした説明は「自分が行った提案は間違っていないということをアピールするための行動」にすぎませんでした。
だからこそ、説明すればするほど、お客様は「聞きたいのはそれじゃない」とイライラしていき、最後には提案の時間を打ち切られてしまったのです。
私のケースでは、「質問に対して応える」という一見冷静に見える行動が、実は「反撃」という行動になってしまっていました。
コンサルタントとして、プロジェクトの提案に行っているのに、お客様がコミュニケーションを取ろうと投げてくれたボールを、豪速球で投げ返したらどうなるでしょうか?
提案を打ち切られて当たり前ですよね。
そしてそれは、コンサルタントとして臨む結果ではないですし、プロジェクトが受注できないことが、私のキャリアにとって前向きな結果になるわけがありません。
(いま、こうやって記事のネタになっているという点では、失敗も意味がないわけではないのですが、笑)
ロジカルシンキングを学び、実践する前に必要なこと
ロジカルシンキングを学び、実践すること。
これは、ビジネスでのコミュニケーションをスムーズに効率的に行う、意思決定をしやすくするのに役立つのは間違いありません。
私自身も、ツールとして大切だと思うからこそ、教えています。
一方で、ロジカルシンキングを学び、実践さえすれば、仕事がうまくいく、コミュニケーションがうまくいく、と考えるのは拙速です。
ロジカルシンキングはあくまでツールでしかありません。
ツールは、伝えたいという中身を伴わなければ、効力を発揮できないのです。
私のように、悲しみや不安な気持ちを自覚せず、ロジカルシンキングのスキルを磨くと、鎧ばかりが立派になってしまい、中の人はおびえたまま。
弱い犬ほど吠える、ではありませんが、怯えた心でコミュニケーションを取ろうとすると、相手のちょっとした言動が攻撃に見えてしまします。
そうすると、「怒り」を乗せた行動をとってしまうのです。
「やる気を失う」「投げ出す」「反撃する」、これらは全て、「怒り」を纏わせた行動です。
多くの場合、「怒り」を纏わせた行動は、あなたが本当に意図する結果とは真逆の結果を招きます。提案を打ち切られてしまった私のように。
だからこそ、
「ロジカルシンキングを用いて伝えよう」の一歩手前の行動として、
「私が伝えたいのは何なのか?」を自分に問いかける必要があります。
自分の素直な期待・希望・願望が自覚できるようになると、自分が本当に望む結果を生むための行動がとれます。
私の場合は、『渡辺さんなんていらない』『あなたとは一緒に働きたくない』と言われたらどうしようという不安を言葉にできてから、つまり、自分の弱さや見たくない部分と向き合うことができてから、「そうか、私はお客様の役に立ちたかったんだな」という自分が本当に望む結果を自覚できるようになりました。
そして、それが自覚できると、反撃としての質問への応答ではなく、コミュニケーションとしての質問への応答ができるようになりました。
「私が伝えたいこと」は、「提案の内容」ではなく、
「どうやったらお客様と一緒にお客様の課題を解決できるか」
だったんです。
ツールとしてのロジカルシンキングは、大事。
これは間違いがありません。
しかし、ツールとしてのロジカルシンキングだけではコミュニケーションはうまくいかない。
だから、
私のロジカルシンキングには、そんな特徴があります。
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